▷ トップページ ▷ 雲頂山日記 ▷ 雲頂山日記番外編-猪の鍋を味わう
生野町の奥座敷、史跡・生野銀山から車で約30分、静かな山郷にたたずむ湯宿の大将の四方山話を少し。
生野渓谷黒川温泉、山の料理、季節の風景などをご紹介します。のんびりした時間や空気が届いたら、ええなあ。
最終更新日:2016/05/15(2008/01/08公開)
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国道312号線から429号線へ入り、「生野銀山開坑1200年」ののぼりがはためく生野の町並みを抜けると史跡生野銀山の看板が見える。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康らが直轄の銀山とし、当時の財源となっていた鉱山である。明治政府から皇室財産、三菱と経営が移り発展したが、昭和48年に閉山した。今は、その坑道の一部が観光坑道として公開されている。
少し走ると銀山湖だ。黒川を源流として姫路で瀬戸内海へそそぐ市川を堰き止めた生野ダムでつくられた人造湖である。市川の清水を満々と湛えた湖は、コイ、マス、へらブナ、ブラックバス、ブラウン・トラウト、ブルーギルなどいろんな魚が釣れ、釣りのメッカとして休日には多くの釣りファンで賑わうという。
湖畔の道をたどって、さらに市川の上流へと黒川渓谷を遡って行く。大明寺橋のたもとで国道429号から黒川本村地区へと川沿いに走る。カーブを曲って視界がひらけると目の前に巨大な風車が出現する。近づくとロックフィルの黒川ダムに寄り添うように建つ「やまびこ山荘」が見えてくる。
風車は、関西電力が風力発電の実証試験用に建設したもので、定格出力:150kW、ローター直径:27m、ハブ高さ:30mである。
部屋に通されて一服したところで、近くの黒川温泉から引いた湯を使った風呂に入る。風呂は岩風呂と檜風呂があり、湯船に浸かって大きな窓から外の景色を眺めてると、温泉地のざわついた風呂と違い、ほっこりとしていい気分である。アルカリ性単純泉のこの温泉、肌がすべすべになる。美人の湯といわれる所以である。
風呂のあとは、いよいよ夕食である。最初はあまごのお造りを芥子酢味噌でいただく。淡白ながら弾力があり、味噌の味の後からねっとりとした味わいが口中に広がる。鹿肉の佃煮(これはご飯に合う)に続いて、あまごの唐揚げ、ふきのとうと岩津葱の天ぷら、そして猪の焼豚風が一皿に載って出た。あまごの唐揚げを頭からアゥンと頬張る。骨までサクサクに揚っていて、脂ののりが感じられ、高知の天日塩が旨みを引きたてている。川魚は鮎の塩焼きと甘露煮くらいしか食べないが(どちらも大好物である。)、あまごも好物のリストに追加!
「2月頃だったら、もっとネギの蜜がたっぷりあったんですが…」との言葉を聞きながら頬張った岩津葱の天ぷらには驚いた。ひと噛みごとに甘い蜜が広がり、ほくほくしていてこれは凄い。旬のものはこれよりうまいとは! 美味である。そして、焼猪(猪の焼豚風)をいただく。上品な旨みが充溢していて、噛むたびに旨みがこぼれ出てくる。これも逸品である。
さて、これからが今日のメイン、お待ちかねの猪の鍋である。
「うちの鍋はよそのと違います。近くの猟場から雌の良いのだけ選んで持って来てもらってます。それを味噌をまったく使わず、冬の野菜をベースにしたダシで煮るんです。猪の鍋で有名な所にいろいろ行ってみましたが、今のところはこれが一番ええと思うてます。」と言いながら運ばれた猪の肉の美しいこと。花のように盛られた肉は、黒ずんだ赤色でもピンク色でもなく、真っ赤。脂身の輝くばかりの色合い。これは見ただけで美味さが伝わってくる。
鍋には特製のダシ。そこに白菜、豆腐、椎茸、しめじ、えのき、岩津葱、水菜、菊菜を入れ、猪肉を入れる。強火で煮ると焦げてしまうので、中火でゆっくり煮る(女将さんがつきっきりで世話をしてくれた。)。野菜や猪肉の色が変わったところで食べる。野菜の旨みが染み込んだ肉はやわらかく、上品な豚肉のように甘い風味。脂身もしつこさがなく、まるで豚足のゼラチンのようにサクッと切れて、甘味を残したあとすっと消えていく。優雅な感じである。ここでも岩津葱がいい。長く煮ると溶けてしまうので素早くいただく。
ダシが独特である。昆布だしに醤油ベース。そこに冬野菜や果物をすりおろしたものを入れる。野菜や果物の甘さも結構強い。濃厚で、野菜から出る水分などが加わり加減がよくなってゆく。その濃厚さをくぐり抜けてくる猪の肉と脂身の味わいが素晴らしい。大満足である。猪の肉とダシをセットにして宅配便で送ってるという。常連客から頼まれたのが始まりで、いつの間にか定番になってしまったそうだ。一度この鍋を食べた人なら、送ってほしいというのもうなづける。
すっかり食べきったところで、〆にうどんを鍋に。これがまた美味い。完食である。 ごちそうさま!(合掌)
2007年12月寄稿 S.Y.生
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